19世紀末のアイルランド北。13歳の少女サリーは、父親の急死で遠い農場で雇われ働くことに。読書でつちかった洞察力を駆使し現実に立ち向かい、思いやりのある娘へと成長していく……サリーの成長が心地よい、アイルランドの青春物語。
【作者】 エリザベス・オハラ
1954年、アイルランド、ダブリン生まれ。国内外の複数の大学で、古英語、古アイルランド語、民間伝承を研究し、アイルランド国立図書館に勤務しながら、多くの作品を発表している。大学で教鞭をとるほか、欧米各国で講演活動もおこなっている。
【訳者】 もりうち すみこ
福岡県生まれ。訳書『ホリス・ウッズの絵』(さ・え・ら書房)が産経児童出版文化賞に、訳書『真実の裏側』(めるくまーる)が同賞推薦図書に選ばれる。他の訳書に『ヨハネスブルクへの旅』『リリー・モラハンのうそ』(共にさ・え・ら書房)、『キルトにつづる物語』(汐文社)、『ベニー・フロム・ヘブン』(ほるぷ出版)、『ドリーム・アドベンチャー』(偕成社)などがある。
サリーの帰る家
エリザベス・オハラ=作
もりうち すみこ=訳
定価:本体1700円+税
判型・体裁:四六判/296ページ
発行年月:2010年4月
ISBN978-4-378-01485-2
NDC933
【内容】
本好きのサリーは夢想家ではあるが、待ち受ける運命は、百年前のアイルランドの国情を映して厳しい。しかしサリーは運命を受け入れ、未知の世界に果敢にとびこんでいく。父の死により、遠い農場で働くことになった十三歳の少女が、他人を思いやって信頼のできる一人前の娘になるまで。情景描写や心理描写も巧みにえがかれ、あきさせない。
【本文より】
「おまえたち、ふたりともはたらきに出てもらいます。10月の終わりごろにミルフォードで、雇い手がやとわれるものをえらぶ市が立つの。そこに行って、ふたりとも、だれかにやとわれなくちゃならない。それが期限までに地代を払うたったひとつの方法なの。それまでは、学校に行ってもいいけど、市のあとは、学校はあきらめてもらいます」
ケイティは押し黙っている。
サリーはさけんだ。
「雇われ人の市? それって、奴隷と同じじゃない! 『アンクルトムの小屋』そのものだわ! そんなもの、行かない。母さん、いやよ!」
母親は、立ち上がり、ひとこともいわず、テーブルから離れた。
サリーのえらぶ道
エリザベス・オハラ=作
もりうち すみこ=訳
定価:本体1700円+税
判型・体裁:四六判/288ページ
発行年月:2011年12月
ISBN978-4-378-01493-7
NDC933
【内容】
ひと夏のできごとが、サリーの人生を大きく変えた。
1893年の夏、北アイルランドのドニゴール州は、かつてない暑さと乾きに見舞われていた。
雇われ娘のまま一生を終えたくはないと決意して故郷に帰ったサリーだったが、待っていた現実は、追い立て、死、侮辱と、きびしいものばかり。しかも、一年でもっとも楽しいはずのブルーベリー・サンデーの祭りが、これほどつらいものになるとは……。
【本文より】
サリーは泣き出した。いつも、この歌を聴くと悲しいきもちになるが、今、セイディーのうつくしい歌声をとおして、自分を去った若者に心のすべてをささげてしまった少女の物語を聞いていると、マナスに対する不安と、もどかしさと、いとおしさが、泉のようにいっぺんにわきでてくる。
マナスは、わたしを愛している。わたしを捨てたりなどしていない。それなのに、歌の中の少女をまるで自分のように感じ、少女の気持ちが、手にとるように、わかりすぎるほどわかる。だって、恋人が心変わりするなんて、こんな悲しいことがあるだろうか。
サリーの愛する人
エリザベス・オハラ=作
もりうち すみこ=訳
定価:本体1700円+税
判型・体裁:四六判/345ページ
発行年月:2014年4月
ISBN978-4-378-01495-1
NDC933
【内容】
20世紀の幕開けに、アイスランドの首都ダブリンは、活気にみちていた。
サリーは、家庭教師としてやとわれた上流階級をとおして思いもよらぬ新しい体験をする。生まれて初めて自転車に乗り、著名な詩人と間近に出会い、文芸復興の熱気の中で進歩的な友人たちと、自由な都会の生活を満喫していた。
【本文より】
サリーは、トーマスの手首に手をのせた。その真剣な表情が、トーマスに、これから知るべきことを伝えていた。
「トーマス、あなた、誤解しているわ。ごめんなさい。でも、わたし、まだ決心してないの」
トーマスの顔が真っ青になった。
「それに」サリーはつづけた。「ある人が、わたしに会いにきたの。故郷から」
「ある、男が、ってことか?」トーマスが、急にこわい顔で、責めるようにサリーを見つめた。